
PowerShotG9というカメラがある。
キヤノンが2007年にリリースした、コンパクトデジタルカメラのフラグシップモデルだ。
そして、僕が始めて手にとったカメラでもある。
僕がカメラを買った理由は、屋久島に旅行に行ったからである。
とはいえ屋久島に行くために「あーそういやこの思い出保存しなきゃなー。何がいいなー。おっなんだこのパワーショットG9って。1/1.7型CCD 総画素数約1240万画素、さらにISO80からスタートで、実用感度400、そしてモニターは三型。もうこれは買うっきゃないね、トム!」とかなんとかほざいて買ったわけではない。当時の僕はそこまでカメラに興味が持てず、旅行に行くといっても「すべては記憶の中だ。今はそれでいいのさジョン」とかそんなこと言う痛い子だったの。
では、屋久島に行ってでっかい木に感動してそれを写真に収めていないなんてもったいない、とかそういった理由かというとそうでもない。いや、それも理由の一端ではあるのだが。
じゃあ一体何が理由なんだよボブ!
それは、屋久島でアシスタントをやらされたことにある。
一緒に屋久島に行った友人がペンタックスのK10をもっており、それでひたすら楽しそうにパシャパシャ撮るのだ。山道なんかを延々と歩いてるとき、何故か僕はそいつの三脚を持って歩いていたのである。延々と。延々と。忘れがたい。
「何故僕がこんな責め苦を負っているのに、こいつはこんなに楽しそうなのか。死ね、オブラートに包まれて死ね」
これが僕がカメラを買った理由である。
さて、そんな不純な理由でカメラ道に入ってしまった僕が選んだのが、このG9であったわけだ。
とはいえ、最初にカメラを買うとなったときに、何を買うべきか相当悩んだ。「いきなり一眼ってのもなあ。クソ高いし。いやでもコンデジを選んだところで、綺麗な写真撮れないんじゃあ……ううん、なんとかならないかい、ジェシー」
なんとかなった。
いや、実際のところ、このカメラは中途半端だ。コンデジにしては大きく、値段も高い。もちろんその分性能も高いが、一眼カメラに及ぶところではないし、レンズ交換だって出来ない。
ないない尽くしだ。
だが、このカメラには操作する楽しみがあった。
写真を撮る、という楽しみがあったのだ。
写真を撮る楽しみ、というと人によって意見が分かれるだろうし、色々なものがあるだろう。
僕がこのカメラに感じたそれは「設定を変えることで写真の出来が変わる」という当たり前のことだ。当たり前のことだとわかってはいたけど、思っていた以上の面白さがあったのだ。
体感する、ということ。写真を撮る楽しみ。このカメラはそれを強く味わわせてくれた。
その理由は、背面、モニターの横にある円状の操作リングにある。

この画像の右の部分だ。ここをぐりぐりと弄ることでF値やらシャッタースピードやらの設定を弄ることができる。そして、その弄った結果を横のモニターで見ながらまた弄って写真を撮れるという寸法だ。
それはそれは楽しかった。
このリングのおかげで、僕は見事カメラ沼に嵌ってしまったのだ。
もちろん先に述べたように中途半端なカメラであるのは間違いないので、数ヵ月後、一眼レフを買った。Canon EOS30D。もちろんこのぐりぐりがついている。
時を経て、今僕が使ってるのはPENTAX K5Us。
やっべーよマジでローパスレスフィルターマジ綺麗。ていうかレンズ安すぎひゃっほー! という感じではあるのだが、今でもたまにこのぐりぐりが懐かしくなる。
なんでもないような、ただのUIなのだが、それもまた楽しさの一つなのだ。だからなんとかなりませんかね、ペンタックスさん。お願いします、なんでもしますから。

Illust:なかな